現代語訳

・(垂仁)100年(上鈴788年)
 ・3月、タジマモリ※が、トキシクカグツ24籠、橘の木4本、株4本を持ち帰ってきた
  ・しかし、これを届ける前に君が罷ってしまった
 ・そこでタジマモリは土産の半数を若宮(ヲシロワケ)へ、残り半数を君の御陵に捧げて申し上げた
  ・「私はこれ(橘)を得るために遥か遠くのトコヨに行きましたが、そこは尊(君)が隠れた場所には及びません
  ・トコヨまでの道すがら、風土に馴染むのに10年を経ましたが、これは君を思ってこそ凌ぎを得て帰ることが出来ました
  ・皇がクシヒル(貴霊)によってお帰りになった今、既に代わってしまった世で、臣として生きて何が為せましょうか」
 ・タジマモリは、御陵の前でこのように告げると、追って罷った
  ・タジマモリの訃報に諸人は涙して、橘4本を殿前に植え、株4本を菅原(御陵)に植えた
 ・その後、タジマモリの遺言を皇子(ヲシロワケ)が見た
  ・「橘君(カグモトヒコ)の娘のハナタチバナヒメ※は故人(タジマモリ)の妻である」
 ・そこで、オシヤマを派遣して、ハナタチバナヒメと その父のカグモトヒコ※を呼び寄せた
  ・皇子は喜んでモトヒコにユルシハを与えて、タジマモリの喪に務めさせた
 ・5月末の夜中、皇子はハナタチバナヒメが生んだ子に詔した
  ・「昔の人の緒を留める故、ヲトタチバナヒメ※と名付けよ」
  ・こうして、この子は詔によって名を賜った
 ・また、タジマモリに似る姿のオシヤマ母子(ハナタチバナ・ヲトタチバナ)は嫁いで行った
  ・この御恵みが、オウスとの深いゆかりの始まりとなったのだろう

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用語解説

・タジマモリ:アマヒボコの曾々孫で、勅命によってトコヨに橘の実を取りに行った。『記紀』でいうタジマモリに当たる
・ハナタチバナヒメ:タチバナモトヒコの娘で、タジマモリの妻。タジマモリの死後に、オシヤマの妻となる
・カグモトヒコ:橘の君で、ハナタチバナヒメの父、ヲトタチバナヒメの祖父
・ヲトタチバナヒメ:タジマモリとハナタチバナヒメの娘で、後にヤマトタケ(オウス)のスケ妻となる

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原文(漢字読み下し)

・明(あ)くる春(はる) 三月(やよひ)に帰(かえ)る
・タジマモリ 研(とき)き優(し)く芳(か)く果(つ)
・二十四篭(ふそよかこ) 橘(かく)の木四差(きよさほ)
・株四差(ふそよさほ) 持(も)ち来(き)たる間(ま)に
・君(きみ)罷(まか)る 土産(みやけ)半(なか)はお
・若宮(わかみや)え 半(なか)はお君(きみ)の
・御陵(みささき)に 捧(ささ)け申(もふ)さく

・これ得(ゑ)んと 遥(はる)かに行(ゆ)きし
・トコヨとは 尊(かみ)の隠(かく)れの
・及(およ)ひなき 風(ふり)お馴染(なし)むの
・十年(ととせ)経(ふ)り あに思(おも)ひきや
・凌(しの)き得(ゑ)て 更(さら)帰(かえ)るとは
・皇(すへらき)の 貴霊(くしひ)によりて
・帰(かえ)る今(いま) 既(すて)に更(さ)ります
・臣(とみ)生(い)きて 何(なに)か為(かせ)んとて
・追(お)ひ罷(まか)る

・諸(もろ)も涙(なんた)て
・橘(かく)四本(よもと) 殿前(とのまえ)に植(う)え
・株四本(かふよもと) 菅原(すかはら)に植(う)ゆ

・遺(のこ)し文(ふみ) 皇子(みこ)見給(みたま)ひて
・橘君(かくきみ)か ハナタチバナは
・故(かれ)か妻(つま) オシヤマ遣(や)りて
・呼(よ)はしむる 父(ちち)モトヒコと
・上(のほ)り来(く)る 皇子(みこ)喜(よろこ)ひて
・モトヒコに 許(ゆる)し衣(は)賜(たま)ひ
・喪(も)お務(つと)む

・ハナタチバナか
・五月末(さつきまつ) 夜半(よは)に生(う)む子(こ)に
・御言宣(みことのり) 昔(むかし)の人(ひと)の
・緒(を)お留(とと)む ヲトタチバナと
・名(な)お賜(たま)ひ 似(に)たる姿(すかた)の
・オシヤマに 婚(とつ)く母子(ははこ)も
・御恵(をんめく)み 深(ふか)き縁(ゆか)りの
・試(ため)しなるかな

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります