現代語訳

ヤマサチヒコは、元鉤を見つけて喜んだ
 ・そこでシガノカミ※を召し、兄のウミサチヒコに返すよう命じると、早速ワニ(船)に乗って向った
 ・その途中のシノ宮でヤマクイ※を招き、ウカワ宮に到った
・ウカワ宮にてウミサチヒコ(兄君)が事の次第を問うと、ヤマクイがそれに答えた
 ・「これは昔、君(ヤマサチヒコ)が借りたまま無くしてしまった鉤であります
 ・今 ようやく見つけたので、弟宮からシガノカミを通じて返却に参ったのです」
・こう説明すると、シガノカミが鉤を持って奉った
 ・ウミサチヒコは鉤を取って「私の鉤である」と言いつつ、「いや待てよ」と推理し始めた
 ・すると、ウミサチヒコは怒り始め「道理無く我を呪うのは何故だ?弟が自ら来るはずであろう」と言った
ヤマクイは応えて言った
 ・「いえ、それは違います
 ・もし、逆の立場であれば (弓の)朽ち糸に換えて新しい糸を渡すはずでしょう
 ・ここで、弟君(の元鉤を見つけた功績)を認めればサチも成ります(これにて一件落着)
 ・しかし、弟君を認めなければ『兄君を駒のように這わせて、詫び言を言わせよ』と言付かっております」
ヤマクイの返答を聞いたウミサチヒコは、怒って船を漕ぎ出した
 ・そこで、シガノカミは珠(ミチヒノタマ※)を投げてアワ海を乾かし、ウミサチヒコを追って船に乗り込んだ
 ・ウミサチヒコが船を飛び降りると、ヤマクイも追い、ウミサチヒコの手を引いた
 ・そこにシガノカミが(水を封じ込めた)珠を投げ込んで、珠の水を溢れされた
 ・ウミサチヒコは水に沈む途中で「汝ら助けよ、そうすれば私は末永く弟の駒となり、糧を捧げよう」と命乞いをした
 ・そこで二人は兄君を許して船を渡し、ウカワ宮に帰って仲直りして帰った

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用語解説

・シガノカミ:シガを治める国主(カナサキの孫に当たる)
・ヤマクヒ:ニニキネの命によって山背の野を開拓し、ヒヱノヤマを造成した。『記紀』でいうオオヤマクイに当たる
・ミチヒノタマ:潮の干満を引き起こす珠のこと

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原文(漢字読み下し)

・君(きみ)は鉤(ち)お得(ゑ)て
・喜(よろこ)ひに シガの守(かみ)して
・返(かえ)さしむ ワニに乗(の)り行(ゆ)き
・シノ宮(みや)て ヤマクイ招(まね)き
・諸共(もろとも)に ウカワに行(ゆ)けは

・宮(みや)会(あ)いて 問(と)えはヤマクイ
・これ昔(むかし) 君(きみ)か鉤(ち)お借(か)り
・取(と)られしお 今(いま)取(と)り返(かえ)し
・弟宮(とみや)から シガの守(かみ)して
・返(かえ)さしむ シガは鉤(ち)お持(も)ち
・奉(たてまつ)る

・宮(みや)窺(うかか)ひて
・我(わ)か鉤(ち)そと 言(い)いつつ立(た)つお
・袖控(そてひか)え 待(ま)ちちと言(い)えは
・宮(みや)怒(いか)り 道(みち)なく我(われ)お
・なぜ呪(のろ)ふ 兄(ゑ)には弟(おと)から
・上(のほ)るはす

・応(こた)えて否(いな)や
・朽(く)ち糸(いと)お 換(か)えて貸(か)すはす
・知(し)れはサチ 知(し)らねは弟(おと)へ
・駒(こま)這(は)ひに 詫(わ)ひ言(こと)あれと
・言(い)えは尚(なお) 怒(いか)りて船(ふね)お
・漕(こ)き出(いた)す

・珠(たま)お投(な)くれは
・海(うみ)乾(かわ)く シガ追(お)ひ行(ゆ)きて
・船(ふね)に乗(の)る 宮(みや)飛(と)ひ逃(に)くる
・ヤマクイも 馳(は)せ行(ゆ)き宮(みや)の
・手(て)お引(ひ)けは シガまた投(な)くる
・珠(たま)の水(みつ)

・溢(あふ)れて既(すて)に
・沈(しつ)む時(とき) 汝(なんち)助(たす)けよ
・我(われ)長(なか)く 弟(おと)の駒(こま)して
・糧(かて)受(う)けん ここに許(ゆる)して
・迎(むか)ひ船(ふね) 宮(みや)に帰(かえ)りて
・睦(むつ)みてそ去(さ)る

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります