現代語訳

・この後、アメタネコクシネウサマロは、若宮(カヌナカワミミ※)と共に葬送を謀った(葬儀の計画を会議した)
・その際、タギシミミ※が独断で政を執ろうとした
 ・"直り(中臣・物主)の三人(タネコ・クシネ・ウサマロ)"若宮に問うたが、これに答えなかった
 ・そのため、喪に入ってモロハトミ(両羽臣)に後を任せた
タギシミミは、父タケヒト(神武)のミオクリ(回送)も拒んで、二人の弟を裏切った
 ・また、畝傍峰のサユの花見を見合え(偽装)して、若宮を室屋に召した
 ・この不穏を察した若宮の母のタタラヰソスズヒメは、若宮に歌の直しを請うた
 ・若宮が札を取って確認すると、そこにはイイロを詠む二歌があった
  ・『サユカワゆ 雲立ち渡り 畝傍山 木の葉さやぎぬ 風吹かんとす』
  ・『畝傍山 昼は雲訪い 夕されば 風吹かんとぞ 木の葉さやぎる』
 ・若宮はこの二歌を考えて、聡明に害を為されることを知った(歌に陰謀が隠されていることに気付いた)
若宮カンヤヰミミ※を召して、和歌に示されていることを このように語った
 ・「昔、イスキヨリヒメと密通していたが、兄(タギシミミ)は親子の情けとして表に出さずに内々に済ませた
 ・(それ故に)今、は我儘に政を執っているが、本来ならば退いて臣に授けるべきである
 ・マタイラフ(干渉する)とは何事であろうか
 ・また、の葬儀も拒んで回送せず、我らを招くのも偽りである
 ・故に、に対する策を図るべし」
・こうして二人(ヌナカワミミカンヤヰミミは、まずユゲノワカヒコを召して弓を作らせた
 ・次にマナウラを召してマカゴの鏃を鍛えさせ、カンヤヰミミに靫を背負わせた
・そして、若宮の言うとおりにカタオカムロにやってきた
 ・そこでが床に伏せて昼寝をしている折に、若宮カンヤヰミミにこう告げた
  ・「兄弟が競っていては付いてくる者は居ないだろう、故に私が室に入った時に汝が矢を射よ」
 ・そして室の戸を突き開けて入ると、は怒って「靫を背負って入るとはどういうことだ?」と言った
  ・その時に若宮が斬りかかったが、カンヤヰミミは手足が震えて弓を討つことができなかった
  ・そこで若宮が弓矢を引き取り、一矢をの胸に、二矢をの背に当てて、遂に殺してしまった
・そして、の遺骸はカタオカムロに納められ、"ミコノカミ"として祀られた
 ・震えて怖気づいたことを恥じたカンヤヰミミは、イホノトミのミシリツヒコと名を変えてトイチに住んだ
 ・そこで常にカミノミチ(神を斎き祀ること)を行って、亡きの祀りをネンコロに催行した

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用語解説

タギシミミタケヒトとアヒラツヒメの子。『記紀』でいうタギシミミに当たる
カンヤヰミミタケヒト(神武)とタタラヰソスズヒメの第一子。『記紀』のカンヤイミミに当たる
カヌカワミミタケヒト(神武)とタタラヰソスズヒメの第二子で、2代綏靖天皇となる。『記紀』のカムヌナカワミミに当たる

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原文(漢字読み下し)

・アヒラツ姫(ひめ)と
・モノヌシと 橿原宮(かしはらみや)に
・侍(はんへ)りて 長(なか)く喪(も)に入(い)り
・生(き)き坐(ま)すの 如(こと)に勤(つと)むる

・アメタネコ クシネ・ウサマロ
・若宮(わかみや)に 送(おく)り議(はか)れは
・タギシ御子(みこ) 一人(ひとり)政(まつり)お
・執(と)らんとす 直(なお)り三人(みたり)は
・若宮(わかみや)に 問(と)えと答(こた)えす
・喪(も)に入(い)りて 両羽(もろは)に任(まか)す

・回送(おく)りも 拒(こは)みて延(の)はす
・タギシ御子(みこ) 二弟(ふた)お断(た)つ
・畝傍峰(うねひね)の サユの花見(はなみ)と
・見合(まあ)えして 室屋(むろや)に召(め)せは

・ヰスズ姫(ひめ) 歌(うた)の直(なお)しお
・請(こ)わしむる 若宮(わかみや)札(ふた)お
・取(と)り見(み)れは 気色(いいろ)詠(よ)む歌(うた)

・サユ郷(かわ)ゆ 雲(くも)立(た)ち渡(わた)り
・畝傍山(うねひやま) 木(こ)の葉(は)さやきぬ
・風(かせ)吹(ふ)かんとす

・畝傍山(うねひやま) 昼(ひる)は雲(くも)訪(と)ゐ
・夕(ゆふ)されは 風(かせ)吹(ふ)かんとそ
・木(こ)の葉(は)さやきる

・若宮(わかみや)は この二歌(うた)お
・考(かんか)えて 聡(さゆ)に害(そこな)ふ
・ことお知(し)る カンヤヰ御子(みこ)に
・物語(ものかた)り 昔(むかし)后(きさき)お
・犯(おか)せしも 親子(をやこ)の情(なさ)け
・内(うち)に済(す)む

・今(いま)の政(まつり)の
・わかままも 臣(とみ)に授(さつ)けて
・退(の)くへきお また弄(いら)ふ如(こと)
・如何(いか)そや 兄(あに)か拒(は)みて
・送(おく)りせす 我(われ)ら招(まね)くも
・偽(いつわ)りそ これ図(はか)らんと

・ワカヒコに 弓(ゆみ)つくらせて
・マナウラに マカゴの鏃(やしり)
・鍛(きた)わせて カンヤヰ御子(みこ)に
・靫(ゆき)負(お)はせ ヌナカワ尊(みこと)
・兄(ゑ)と到(いた)る 片丘室(かたおかむろ)の
・タギシ御子(みこ) 折(おり)に昼寝(ひるね)の
・床(ゆか)に臥(ふ)す 皇御子(すめみこ)ヤヰに
・宣給(のたたま)ふは 兄弟(ゑと)の互(たか)ひに
・軋(きし)らふは 関(あつ)く人(ひと)なし
・我(われ)入(い)らは 汝(なんち)射(ゐ)よとて

・室(むろ)の戸(と)お 突(つき)き開(あ)け入(い)れは
・兄(あに)怒(いか)り 靫(ゆき)負(お)ひ入(い)ると
・斬(き)らんとす ヤヰ御子(みこ)手足(てあし)
・慄(わなな)けは 皇御子(すめみこ)弓矢(ゆみや)
・引(ひ)き取(と)りて 一矢(ひとや)お胸(むね)に
・二矢(ふたや)背(せ)に 当(あ)てて殺(ころ)しつ
・骸(おもむろ)お ここに納(おさ)めて
・御子(みこ)の神(かみ)

・カンヤヰ恥(は)ちて
・諾(うえな)ひぬ 十市(といち)に住(す)みて
・斎(いほ)の臣(とみ) ミシリツヒコと
・名(な)お替(か)えて 常(つね)の行(ゆ)ひ
・神(かみ)の充(あ)ち 兄(あに)か祭(まつり)も
・懇(ねんこ)ろにこそ

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります