現代語訳

・(垂仁)4年(上鈴692年)
 ・9月、ツウヱはヲナエ(23日)、サホヒコ※(后の兄)后(サホヒメ※)に「兄と夫のどちらが愛しいか?」と問うた
  ・后は驚き、つい「兄です」と答えてアツラウル(都合をよく話を合せた)
 ・すると、サホヒコは后に このように命じた
  ・「汝は(君に)色(美貌?)を以って仕えているが、やがて色が衰えれば恵みも去るであろう
  ・しかし、兄の(恵み)は永遠である
  ・我の願望は、我と汝が御世を踏み、安定した土台を保つことである
  ・故に、我のために君をシイセ(弑せ)よ」
 ・このように命じると、ヒモガタナ(秘刀)を持って后に授けた
  ・この時、后は兄の心根を諌めても聞かぬことを悟って、ナカゴ(心)が震えた
  ・また、この秘刀をどうしようもなく袖内に隠し諌めた
・(垂仁)5年(上鈴693年)
 ・3月初日、皇がクメタカミヤに御幸して后の膝枕で寝ている時、后は「(暗殺は)この時」と思った
  ・しかし、涙を流してしまうと、涙が君の顔に落ちて起こしてしまった
 ・君は目覚めると、先ほどまで見ていた夢の話をした
  ・「今、私の夢にイロオロチが現れた
  ・オロチは首に纏わりついたが、サホノアメが面を濡らしたのだ
  ・これは何の清汚であろうか」
 ・后は胸に隠したことを隠しきれなくなり、臥し転びつつ、あからさまに答えた
  ・「私はやはり、君の恵みに背向くことはできません
  ・しかし、告げれば兄の身を滅ぼしてしまいます
  ・ですが、告げなければ君の治世を傾けてしまいます
  ・私はこれを恐れ悲しみ、血に涙を流しました
  ・そして、君が膝枕で昼寝をしているとき、兄のアツラエ(依頼)を為す機会はここだと思いました
  ・もしも狂った者であれば、これを偶然得た功名であると思うでしょう
  ・ですが、それを思えば涙が溢れ、それを拭く袖から御顔にこぼれ落ちてしまいました
  ・君の夢に現れたオロチは きっとこれでしょう」
 ・后が白状して秘刀を出せば、君は早速 詔して近くのヤツダナ(区画を治める者)を召して、サホヒコを討てと命じた
  ・その時、サホヒコはイナキ(防御柵)を成して堅く防ぎ、なかなか降伏しなかった
  ・后は悲しみ「私が生きていても、シムが枯れれば何がオモシロ」と言って、御子のホンツワケを抱いてイナキに入った
  ・君は「后と御子を出すべし」と詔したが、后は出てこなかった
 ・ヤツナダは、イナキに火を掛けて火攻めにすれば、后は御子を臣に抱かせてイナキから出した
 ・そして后は、イナキの中から君に申し上げた
  ・「私は、兄の罪を許してもらうためにイナキに入りました
  ・ですが、兄だけではなく私にも罪があることを知りました
  ・私はたとえ罷っても、君の御恵みを忘れることはないでしょう
  ・後の定め(内宮の後釜)にはタニハチウシを姫を貰ってください」
 ・后の申し出に対して君が許しを与えた時、炎が勢いづいてイナキが崩れた
  ・そのため、(周りから)諸人が離れると、后とサホヒコは炎に巻かれて罷った
 ・この事件の後、君はヤツナダが功績を褒めてタケヒムケヒコの名を与えた

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用語解説

・サホヒコ:ヒコヰマスの子で、開化天皇の孫に当たる。『記紀』でいうサホヒコノミコに当たる
・サホヒメ:サホヒコの妹で、垂仁天皇の内宮。『記紀』でいうサホヒメに当たる

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原文(漢字読み下し)

・四年九月(よほなつき) ツウヱはヲナヱ
・サホヒコか 后(きさき)に問(と)ふは
・兄(あに)と夫(をと) 何(いつ)れ篤(あつ)きそ
・后(きさき)つひ 兄(あに)と答(こた)ふに
・誂(あつら)うる

・汝(なんち)色(いろ)もて
・仕(つか)ゆれと 色(いろ)衰(おとろ)いて
・恵(めく)み去(さ)る あに永(なか)からん
・願(ねか)はくは 我(われ)と汝(なんち)と
・御世(みよ)踏(ふ)まは 安(やす)き枕(まくら)や
・保(たも)たんそ 君(きみ)お弑(しい)せよ
・我(わ)かためと

・秘刀(ひほかたな)持(も)て
・授(さつ)く時(とき) 兄(あに)か心根(こころね)
・諌(いさ)めおも 聞(き)かぬお知(し)れは
・サホ姫(ひめ)の 中子(なかこ)慄(わなな)き
・秘刀(ひもかたな) 為(せ)ん方(かた)無(な)くも
・袖内(そてうち)に 隠(かく)し諌(いさ)めの
・六月(せみなつき)

・初日皇(はつひすへらき)
・御幸(みゆき)して 来目高宮(くめたかみや)に
・膝枕(ひさまくら) 后(きさき)思(おも)えは
・この時(とき)と 涙(なんた)流(なか)るる
・君(きみ)の顔(かほ) 君(きみ)夢(ゆめ)覚(さ)めて
・宣給(のたま)ふは 今(いま)我(わ)か夢(ゆめ)に
・色(いろ)オロチ 首(くひ)に纏(まと)えて
・騒(さほ)の雨(あめ) 面(おもて)濡(ぬ)らすは
・何(なに)の清汚(さか)

・后(きさき) 応(こた)えて
・隠(かく)し得(ゑ)す 臥(ふ)し転(まろ)ひつつ
・あからさま 君(きみ)の恵(めく)みも
・背(そむ)き得(ゑ)す 告(つ)くれは兄(あに)お
・滅(ほろ)ほせり 告(つ)けさる時(とき)は
・傾(かたむ)けん 恐(おそ)れ悲(かな)しみ
・血(ち)の涙(なんた)

・兄(あに)か誂(あつら)え
・ここなりと 君(きみ)か昼寝(ひるね)の
・膝枕(ひさまくら) もしや狂(くる)える
・者(もの)あらは 偶(たまさか)に得(え)る
・功(いさおし)と 思(おも)えは涙(なんた)
・拭(ふ)く袖(そて)に 溢(あふ)れて御顔(みかお)
・潤(うるほ)せり 夢(ゆめ)は必(かなら)す
・この応(こた)え オロチはこれと

・秘刀(ひもかたな) 出(た)せは皇(すへらき)
・御言宣(みことのり) 近方(ちかかた)にある
・ヤツナダお 召(め)してサホヒコ
・討(う)たしむる

・時(とき)にサホヒコ
・否垣(いなき)成(な)し 堅(かた)く防(ふせ)きて
・降(くた)り得(ゑ)す 后(きさき)悲(かな)しみ
・我(われ)たとひ 世(よ)に在(あ)るとても
・シム枯(か)れて 何(なに)面白(おもしろ)と
・御子(みこ)抱(いた)き 否垣(いなき)に入(い)れは
・御言宣(みことのり) 后(きさき)と御子(みこ)お
・出(た)すへしと あれと出(いた)さす

・ヤツナダか 火攻(ひせ)めになせは
・后(きさき)ます 御子(みこ)抱(いた)かせて
・城(しろ)お越(こ)え 君(きみ)に申(もふ)さく
・兄(あに)か罪(つみ) 逃(のか)れんために
・我(われ)入(い)れと 共(とも)に罪(つみ)ある
・ことお知(し)る たとひ罷(まか)れと
・御恵(みめく)みお 忘(わす)らて後(のち)の
・定(さた)めには タニハチウシの
・姫(ひめ)おもかな

・君(きみ)か許(ゆる)しの
・ある時(とき)に 炎(ほのほ)熾(おこ)りて
・城崩(しろくつ)る 諸人(もろひと)更(さ)れは
・サホヒコと 后(きさき)も罷(まか)る
・ヤツナダか 功(いさおし)褒(ほ)めて
・賜(たま)ふ名(な)は タケヒムケヒコ

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります