現代語訳

・このとき、ヲバシリトヨケ※の座すヒタカミ宮に参上し、馬術の法を尋ねた
・すると、まず トヨケは乗馬について教えた
 ・「乗馬は地道(普通の速度で歩まさせる)を通常とする
 ・馬子(馬飼い)に手綱を引かせて馬の右から踏み上がればよい
  ・また、乗る際にはヤスクラ(安鞍)とアブミナワ(鐙縄)も必要である
 ・馬の背にこれらを設置すべし
 ・馬に跨れば、自分の腿と馬のハルビ(腹帯)の緩み合い(緩と締)を調節せよ
 ・そして腰を据えて乗り、馬の足取りと自分のイキス(息)を合せて乗るべし
 ・これらが乗馬の要である」
・次に、トヨケは乗馬の際の心構えを教えた
 ・「乗馬の際は常に馬の心を知っておくべし
 ・馬は生まれてから自然に人を乗せ方を知るわけではない
 ・そのため、馬の状態を知らずに乗れば、馬が暴走した時に落馬するかもしれない
 ・よって、馬にも人の乗せ方を教えておけば、人と馬の息が合ってくるのである」
・次に、トヨケは馬のイツクノリ(厳乗)について教えた
 ・「乗馬にはおける厳乗は馬が勢いづいた時のことを指す
 ・これは鞍を置いた後、腹帯を緩めないことが重要である
 ・また、ヒチヨケ※(泥除けの馬具)の由来はこうである
  ・馬を走らせて行く道の途中、窪んだ小溝があった
  ・そこに行った時に鐙で馬の垂皮を打って煽ったことに始まる
  ・馬が垂皮を打ち煽られて風を含んで羽となった時、小溝を見事に飛び越えられた
  ・これは乗る者が上手く操ったことに他ならないだろう
 ・また、手綱と轡の間の距離をヒトヌキマ(一貫の間)と名付けた
  ・これは天地開闢の故事によるものである
  ・天地が分かれていない時、アメミヲヤは泡を天(非物質)、泥を地玉(物質)とした
  ・そしてウツロ(神の馬)に乗り、シナト(風)の手綱(轡)を引いて乗り巡ったという
 ・また、二尊もこれに倣って国を巡ったのである(国産み)
  ・地を治めるのもウツロと轡(空と風)であろう
  ・地玉を一貫きの結と心得れば、たとえ馳せても落馬はしないのだ
  ・(天・地の如く人・馬も不可分一体に連なるものと考えるべし)」
・そして、トヨケは乗馬の真髄をまとめて教えた
 ・「馬を狂わせぬように自分と馬の心を一貫きの手綱と捉えるのが騎手の真髄となるのである
  ・ヒチヨケを以って馬を煽っても、手綱が強ければ馬は飛ばない
  ・逆に手綱が緩ければ前足を折って倒れるぞ
  ・厳乗りと緩乗りというように、駆け・越えには陰陽と同じ関係がある
 ・この程合の区別を知れば、地道からイツ(厳)・アレ(荒)までの乗り方を全て得ることができるだろう」

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用語解説

・トヨケ:イサナミの父であり、ヲバシリの祖父。五代目タカミムスビ。いわゆる豊受大神に当たり、多大な功績を遺した
・ヒチヨケ:泥除けの馬具(泥障と書いて"あおり"と読む由縁はホツマツタエのみで明らかにされているという)

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原文(漢字読み下し)

・時(とき)にヲバシリ
・ヒタカミの 宮(みや)に詣(もふ)てて
・道(みち)請(こ)えは トヨケの尊(かみ)の
・教(をし)ゑには

・乗(の)りは地道(ちみち)を
・常(つね)となす 馬子(まこ)に手綱(たつな)を
・引(ひ)かせ置(お)き 馬(むま)の右(みき)より
・踏(ふ)み上(のほ)り 敷(し)く安鞍(やすくら)の
・鐙縄(あふみなわ)

・マチに居木(ゐき)上(あ)け
・試(こころみ)みて 腿(もも)と腹帯(はるひ)の
・緩(ゆる)み合(あ)ひ 腰(こし)据(す)え乗(の)りて
・和々(やわやわ)と 馬(むま)の足取(あしと)り
・イキス相(あひ) 合(あ)わす要(かなめ)の
・乗(の)り法(のり)そ

・常(つね)に心(こころ)を
・得(う)へきなり 馬(むま)は生(うま)れて
・もの知(し)らす 熱(あた)走(はし)る時(とき)
・乗(の)り落(お)つそ 兼(か)ねて教(をし)ゑは
・適(かな)ふもの

・また厳乗(いつの)りは
・馳(は)せる時(とき) 下嘗鞍(しとなめくら)を
・敷(し)き置(お)ひて 腹帯(はるひ)緩(ゆる)めす

・泥除(ひちよ)けの 垂皮(たれかわ)浮羽(うは)と
・なる故(ゆえ)は 馳(は)せ行(ゆ)く道(みち)に
・中窪(なかくほ)の 小溝(こみそ)に行(ゆ)きて
・鐙(あふみ)にて その垂皮(たれかわ)を
・打(う)ち煽(あお)つ

・打(う)ち煽(あお)たれて
・風(かせ)含(ふく)み 羽(はね)となる時(とき)
・跳(と)ひ越(こ)さす たとひ跳(こ)ふとも
・乗(の)る人(ひと)の ゆくり無(な)けれは
・あえ跳(と)はす

・轡(くつは)に付(つ)ける
・率(ひ)き綱(つな)を 一貫(ひとぬき)の間(ま)と
・名付(なつ)くなり

・故(ゆえ)は天地(あめつち)
・分(わ)かさるに アメノミヲヤの
・泡(あほ)を天(あめ) 泥(うひ)を地玉(くにたま)
・ウツロ乗(の)り シナトの手綱(たつな)
・和(の)り恵(めく)り

・万物(よろもの)生(う)める
・二尊(ふたかみ)も 和(の)り恵(めく)りてそ
・国(くに)治(をさ)む ウツロ・轡(くつわ)や
・地玉(くにたま)お 一貫(ひとぬ)きの結(を)と
・心得(こころゑ)は たとひ馳(は)すれと
・乗(の)り落(お)ちす

・馬(むま)狂(くる)はせぬ
・我(わ)か心(こころ) 一貫(ひとつらぬ)きの
・手綱(たつな)率(ひ)く 主(あるし)の随(まま)と
・なるものそ

・浮羽(うは)の煽(あお)りを
・現(う)つとても 綱(つな)強(つ)けれは
・馬(むま)跳(と)はす 綱(つな)緩(ゆる)けれは
・前足(まえあし)お 折(お)りて倒(たお)るそ

・厳(いつ)と緩(ゆる) 駆(か)け・越(こ)ゑ陰陽(めを)の
・間(あいた)あり この程合(ほとらい)の
・間(ま)を知(し)れは 地道(ちみち)・厳(いつ)・荒(あれ)
・乗(の)り法(のり)を 全(また)く得(ゑ)るそと
・授(さつ)けます

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります