現代語訳

・上鈴33年、カスガ守(コヤネ)の齢は156万25歳となっていた
・そこでコヤネは、フタヱに「我が齢が極まる故、カンオチ(神教人)を汝に授けることにする」と申しつけた
 ・そして、勤めを果たしにミカサへ帰ってタラ(父母)を祀った
・その際、子のオシクモ※に語って聞かせた
 ・「汝、オシクモよ、確と聞くがよい
 ・昔、君に仕えて御鏡を賜った故、我らは左の臣である、我が子らは和して勤めよ(荒猛を排する)
 ・例えるなら、春は潤出葉、夏は青く、強い紅葉となり、冬に葉が落ちる
 ・例え落ちても恨んではならない、陰の忠を為せば、やがて芽も出るからである
 ・これ故、私がアスカから落ちた時、忠を忘れずにいたことで御孫(ニニキネ)に召されたのである
 ・そこで再び忠を尽くせば、遂に鏡の臣となることが出来た
 ・また、共にアスカを落ちたモノヌシ(クシヒコ)は右の臣となった
 ・故に陰の忠を尽くした若芽は遂に葉の強い秋のユミツルキとなる
 ・このように振る舞うがよい」
・こうして語り終えると、オシクモに酒を勧めた
 ・オシクモが返杯をしようとすると「否、子からは授からぬ」と言って断った
 ・そしてまた、「鏡の臣を敬うのがノコルノリであるぞ」と言って神となった
・2月11日、オシクモはヨソヤ(四十八夜)を経て喪に入り、ヤマシロのオシホに東向きに納めた
 ・また、ヒメカミが罷る時、キ(男)はヤマシロに埋めたため、イキス宮の西向きに納めた
 ・コヤネの夫婦が神となった時、諸民は慕って喪に入る様子は、まるで皇の喪の様であった
・また、サルタ"ミソキニアワ"に胸騒ぎ、フトマニを見れば"ヰムノミ(五六の味)"と出た
 ・『鏡老なる名が一人 憂い有とて これを祀り 受けぬ憂い』
・このように出たことに驚き、ウチに到ってミカサ山を馳せ上がり、カスガ殿と対面した
 ・この時、仮納めの喪中であったため、共に喪に入って神輿を成した
・翌日、コヤネをヒラオカに送る時、この役目をサルタが請うと許された
・そのとき、サルタが神輿を開くと、コヤネの声が聞こえた
 ・「我が常に請うたタマカエシには、オヰヱフタヱに与えたヒフミがある
 ・今、私が持っているものを授け忘れてしまった
 ・コヤネはそのように散々悔やんでいる様子だった」
・時に神となったコヤネは眼を開いて行った
 ・「汝(サルタ)、よく忘れずにやってきたな
 ・これがミモスソ(裳裾)である、これが渡し損ねたものだ」
サルタがこれを受け取って問おうとすると、コヤネは既に眼を閉じていて答えは無かった

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用語解説

・オシクモ:コヤネとヒメの子で、アメタネコの父

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原文(漢字読み下し)

・上鈴三十三年(あすすみそみほ)
・カスガ尊(かみ) 百五十六万(ももゐそむよろ)
・二十五(ふそゐ)なり フタヱに曰(いわ)く
・我(わ)か齢(よはひ) 極(きわ)まる故(ゆえ)に
・神教人(かんおち)お 汝(なんち)に授(さつ)く

・勤(つと)めとて ミカサに帰(かえ)り
・タラ祭(まつ)り 汝(なんち)オシクモ
・確(しか)と聞(き)け 昔(むかし)仕(つか)えて
・御鏡(かかみ)お 賜(たま)えは我(われ)ら
・左(た)の臣(とみ)そ 我(われ)か子(こ)ら和(やわ)せ
・例(たと)ふれは 春(はる)は潤出葉(ぬるては)
・夏(なつ)青(あお)く もみちは強(つよ)く
・冬(ふゆ)葉落(お)つ たとひ落(お)ちても
・な恨(うら)めそ 陰(かけ)の忠(まめ)なせ
・この芽(め)出(て)る

・故(ゆえ)はアスカお
・落(お)ちた時(とき) 忠(まめ)お忘(わす)れす
・この故(ゆえ)に 御孫(まこ)に召(め)され
・忠(まめ)なせは ついに鏡(かかみ)の
・臣(とみ)となる またモノヌシは
・右(みき)の臣(とみ) 葉強(はつよ)き秋(あき)の
・弓(ゆみ)・剣(つるき) かくの如(こと)しと

・酒進(さけすす)む その逆坏(さかつき)お
・請(こ)えは否(いな) 子(こ)から授(さつ)けぬ

・時(とき)にまた 鏡(かかみ)の臣(とみ)お
・敬(うやま)うか 遺(のこ)る法(のり)そと
・神(かみ)となる

・ニ月十一日(きさらきそひか)
・オシクモは 四十八(よそや)喪(も)に入(い)り
・ヤマシロの オシホに納(おさ)む
・東向(ひかしむ)き これヒメ尊(かみ)の
・罷(まか)る時(とき) キはヤマシロに
・埋(い)ます故(ゆえ) イキスの宮(みや)の
・西向(にしむき)きそ 諸民(もろたみ)慕(した)ひ
・喪(も)に入(い)るは 天喪(あめも)の如(こと)し

・サルタヒコ 水濯(みそ)きに泡(あわ)の
・胸騒(むなさわ)き フトマニ見(み)れは
・斎(ゐ)むの身(み)は 鏡老(かかみゑゑ)なる
・名(な)か一人(ひとり) 憂(うれ)ひありとて
・これ纏(まつ)り 受(う)けぬ憂(うれ)いと
・驚(おとろ)きて ウチに到(いた)れは
・ミカサ山(やま) なお馳(は)せ上(のほ)る
・カスガ殿(との)

・早(は)や仮納(かりおさ)め
・喪中(もなか)ゆえ 共(とも)に喪(も)に入(い)り
・神輿(みこし)成(な)し 翌日(あす)ヒラオカに
・送(おく)る時(とき) サルタか乞(こ)えは
・許(ゆる)されて 神輿(みこし)開(あ)くれは
・サルタヒコ 我(われ)常(つね)に乞(こ)ふ
・霊還(たまかえ)し オヰヱとフタヱ
・霊文(ひふみ)あり 今(いま)我(われ)一人(ひとり)
・受(う)けさると 散々(ちち)にそ悔(く)やむ

・時(とき)に神(かみ) 眼(め)お開(ひら)き曰(いわ)く
・汝(なんち)よく 忘(わす)れす来(きた)る
・裳裾(みもすそ)よ 乞(こ)ふはこれそと
・授(さつ)けます サルタ受(う)け取(と)り
・問(と)わんとす 早(は)や眼(め)お閉(と)して
・応(こた)え無(な)し

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります