現代語訳

・そのとき、ハタレ頭のハルナ※が進み出てアマテルに訴えた
 ・「例え風神(ソラカミ)が罪を知ったとして、それを皇尊(天皇)に告げなければ その罪を知る者は無いだろう
  ・また、回を重ねれば、やがて犯人も利口になり、長を欺くことなど簡単になるのではないか?
  ・また、埴神が土から罪を知り、それがやがて自分の言動に現れると言うことだったが、
  ・そもそも荒猛心を持つ者の心は足音や態度に出ており、これと罪人のものをどう分けるのだろうか?
  ・また、皇孫が空(天下)に知らせなければ、新子(新芽=子供)もスリ(外道)になるだろう
 ・これらが成熟すれば やがて悪賢くなり、組織を70万9000に増えて術も身に付ける
  ・そして空(天下)を掴もうと、道を捻って背くのだ
  ・そう考えて六度戦ってはみたが、この現実(敗戦→捕縛)はどういうことなのか?」
・それを聞いたアマテルは微笑んで こう言った
 ・「焦らずに心を落ち着かせて よく聞けよ
 ・己が驕りを逆に欺く報いがあるのだ
 ・その故を聞かせてやろう
 ・私が見て思うに、人情というものは「情けを伝える枝」のようなものであろう
  ・天地より授かった魂と魄を結ぶ、「命」そのものと言えるのかもしれない
  ・すなわち、人情はタマナカコ(霊=中子=心)を潤わす肝(肝心な臓器)と言えよう
 ・シイノネ(魄の根=肉体の要)は、ムラト・ココロハ・フクシ・ユフ・ヨクラ・ヨコシである
  ・腎臓・心臓・肺臓・肝臓・膵臓・脾臓の六臓を指す
  ・この六臓が人情を知っているのだ
 ・情けが心に通っているから、隠し事は露わになる
  ・例えば、賄賂商人を許して栄華を極める収賄役人が居れば、その影響で利益を失う商人が怒りだす
  ・また、収賄と見抜き、分け前を求める同僚の役人も出てくるであろう
 ・人は常に恵みを喜び、負けを憎むものである
  ・主人に呼ばれることを恐れ、糺されて枯れる悲しさから、許しを乞う
  ・主人の怒りで許されなければ、悲しい"後の裁き"が待っている
  ・しかし、臣が連帯保証を条件に預かれば許されることもある(カダとキクミチの例)
 ・裁きを恐れるのであれば、惑う心を改めて忠誠を尽くせばよい
  ・惑える気持ちも、人情の心に触れたならば 他人を打つ時に打たれた痛みを知るだろう
  ・さらに、人に反抗すれば、反抗された者の恨みも知ることになる
  ・そして、器物を盗めば やがて、被害者や罪人となる自分の親族の心の痛みも知ることになるだろう
 ・ココロハの悪しき業を為せば、人情によって告げられること これ同情なり
  ・他人が他人を打ったり、殺したりするのを見れば、止めようと思う心が動くだろう
  ・また、転んだ人を見れば、起こしてあげようという気も起こる、これが同情と言うものだ
 ・ましてや我が身(アマテル)は、ミヤビ(心の伝達)がナカコ(心)に伝われば、それを疑うことは無い
  ・己を治めても、ココロハは驕りを聞けば欲に染まるだろう
  ・外見(外観)に拘っていれば、邪な姿形に惑わされるような感覚や関係を持つことになり、やがて己を枯らすであろう
  ・反面、欲を濯げば感覚も元に戻り、イセノミチが成立するだろう
  ・勇んだり、曲がったココロハはミヤビによって五臓に告げられる
  ・平穏を装った言葉で自分を飾っても、それは足音となって現れる
  ・埴神は人の心を万も十万も知っているが、それは結局 人のミヤビから得ているのである
 ・狡猾過ぎて悪に染まったハタレ達よ、その狡猾さを術として、私を試そうとする心がミヤビから伝わっているぞ
  ・それはまるで松や榧のヤニのようなものだ
  ・ミヤビがなければ身も枯れる、枯れた上で得ようとする色欲は何のためにあるのか?」

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用語解説

・ハルナ:ムハタレの一つで、ハハ(蝕霊)が人や獣に憑いて化けたものを指す

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原文(漢字読み下し)

・ハタレ頭(かみ) ハルナ進(すす)みて
・大御告(ををんつ)け 空神(そらかみ)宣(の)れと
・皇尊(すめらかみ) 告(つ)けなて居(お)らは
・親々(おやおや)や 新子(あらこ)利(き)きてん
・長擦(おささす)り 新実(あらさね)猛(たけ)る
・これ倦(う)んつ 侮(あな)るスリら
・ねしけ増(ま)す さそ足(あし)何(なん)と
・埴(はに)知(し)らん 弥(いや)スリ猛(たけ)る
・これ踏(ふ)んた 吝(しゐは)ふスリも
・お猛(たけ)んは 面(つら)も語(かた)るも
・分(わ)けらんや

・皇尊(すへらかみ)空(そら)に
・知(し)らせぬは 新子(あらこ)スリなる
・これみうん サソら利(き)きてん
・己(おの)か侍(へ)ら 七十万九千(なんますこち)に
・技(わさ)付(つ)けて 空(そら)掴(つか)まんと
・道(みち)捻(ひね)り 六度(むたひ)戦(たたか)ひ
・為(な)したれと 拙(ま)さくる如(こと)は
・如何(いか)ならん

・その時(とき)神(かみ)は
・にこ笑(ゑ)みて また跳疾(はなと)るな
・たた心(こころ) 静(しつ)めて聞(き)けよ
・己(おの)か鋭(とき) 逆(さか)り欺(あさむ)く
・報(むく)ひあり 故(ゆえ)を聞(き)かせん

・我(われ)見(み)るに 人(ひと)のミヤビは
・情(なさ)け枝(ゑた) 陽陰(あめ)より授(さつ)く
・魂(たま)と魄(しゐ) 結(むす)ふ命(ゐのち)の
・霊(たま)中子(なかこ) 潤(う)む霊(ち)は肝(きも)そ

・魄(しゐ)の根(ね)は ムラト・心派(こころは)
・フクシ・ユフ ヨクラ・ヨコシや
・根(ね)の六臓(むくら) 渡(わた)るミヤビか
・ものお知(し)る

・情(なさ)け中子(なかこ)に
・通(かよ)えると 例(たと)えは曲人(くせと)
・賄(まいな)ひて 栄(さか)ゐ増(ま)さんお
・臣(とみ)も欲(ほ)し

・取引(とりひき)増(ま)して
・喜(よろこ)へは 減(へ)り憎(にく)む民(たみ)
・また強(つよ)く 願(ねが)えは怒(いか)る
・朋(とも)の臣(おみ) 迫(せま)るを選(ゑら)み
・分(わ)け還(かえ)す

・恵(めく)み喜(よろこ)ふ
・負(ま)け憎(にく)む

・君(きみ)召(め)す怖(おそ)れ
・直(たた)されて 枯(か)るる哀(かな)しさ
・諸(もろ)請(こ)えと 君(きみ)の怒(いか)りに
・また許(ゆ)りす 悲(かな)しき後(のち)の
・功(いさおし)と 諸(もろ)か守(まも)らえは
・許(ゆる)さるる

・怖(おそ)れは惑(まと)ひ
・改(あらた)めて 忠(まめ)成(な)る如(こと)し

・惑(まと)えるも ミヤビ中子(なかこ)に
・告(つ)け置(お)けは 他人(ひと)打(う)つ時(とき)は
・痛(いた)み知(し)る 謗(そし)れは恨(うら)み
・器物(うつわもの) 盗(ぬす)まは惜(お)しむ
・損(そこ)なわは シムの痛(いた)みも
・知(し)る中子(なかこ)

・心派(こころは)悪(あ)しき
・業(わさ)なせは ミヤビ中子(なかこ)に
・告(つ)く哀(あわ)れ

・他人(ひと)か他人(ひと)打(う)つ
・殺(ころ)すをも 見(み)れは除(のそ)かん
・思(おも)ひあり 転(ころ)ふも起(おこ)す
・哀(あわ)れ枝(ゑた)

・まして我(わ)か身(み)は
・ミヤビより 胸(むね)に通(とほ)れは
・怪(あや)し無(な)く 己(み)お治(をさ)むれと
・心派(こころは)は 奢(おこ)りお聞(き)けは
・欲(ほし)に染(し)む

・味(あち)も色目(いろめ)も
・よこしまに 魄(しゐ)に肖(あやか)り
・己(み)を枯(か)らす

・欲(ほし)も濯(そそ)けは
・味(あち)直(なお)り 妹背(いせ)の道(みち)成(な)る

・勇(いさ)むとも ぬすむ心派(こころは)
・ミヤビより 五臓(ゐくら)に告(つ)けて
・安(やす)からす 見目(みめ)に言葉(ことは)に
・跼(せくくま)り 抜(ぬ)き足(あし)応(こた)ふ

・埴(はに)心万(こころ)・十万(よろます)知(し)れと
・ミヤビから

・鋭過(ときす)きて成(な)る
・ハタレ共(とも) それ試(こころ)みに
・技(わさ)お為(な)せ 我(われ)早(は)や除(のそ)く
・ミヤビあり

・これ松(まつ)・榧(かや)の
・膠(にへ)なるそ ミヤビなけれは
・身(み)も枯(か)るる 枯(か)れて色欲(いろほし)
・何(なん)のためそや

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります