現代語訳

・ある日、タマツ宮に御使としてアチヒコ※が派遣されてきた
ワカヒメアチヒコを見染め、帰ってしまう前に焦って思いを乗せたワカの歌を詠んだ
 ・『キシイこそ、伴(つま)を見際に琴の根(事の根)の、床に我君を待つぞ恋しき』
 ・(私を妻として娶り、紀州に留まって欲しいと思う、その返事を床の中で待っている)
アチヒコは仲人無しに婚姻を迫られたことで焦り、返歌しようと思ったが言葉も浮かばなかった
 ・そこで「後で返すので、待ってくれ」と言い残し、タカマ※に行って諸人に相談した
カナサキワカヒメの歌について、このように説明した
 ・「この歌は返歌できない"マワリウタ※(回り歌)"である
 ・私がかつて御幸の船に乗った時、風が激しく波が立って転覆させられそうになった
 ・そこで、この様な回り歌を詠んだ
  ・『長き夜の 絶の眠りの みな目覚め 波乗り船の 腹の良きかな』
  ・(長い夜の眠りから皆を覚めさせるには、立波に漂う船の揺れは良く効く)
 ・そうすると風は止み、船は快調にアワに着いた
 ・このように、ワカヒメの"回り歌"は縁談を転覆させないのだ」
カナサキがこう説明すると、アマテルは詔を発した
 ・「カナサキが仲人となって縁談を取り止めよ、そしてアチヒコワカヒメと夫婦になるが良い」
・こうして二人は結婚し、ワカヒメヤスカワシタテルヒメとなった
 ・その際の押草は、ヌバタマの花の色は移り変わる明るい色だった
 ・その赤さは日の出の様で、ヒアフギの板を以って作る扇として、国を守り治める教材となった
 ・また、カラスアフギ(明らす扇)は12葉であり、ヒノキ製の扇は穢れを祓うアワウタの48音を指す
 ・なお、ミソフノミチ※(禊ふ道)も忘れてはならない

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用語解説

・アチヒコ:タカギ(タカミムスビ)の子のオモイカネであり、『記紀』でいうオモイカネに当たる
・タカマ:主に中央政府を指す
・マワリウタ:自己完結の堂々巡りで変化・進展を起こさず、外部からの介入も出来ないため返歌出来ない歌
・ミソフノミチ:穢れを祓う道

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原文(漢字読み下し)

・タマツの御使(をしか)
・アチヒコを 見(み)れば焦(こか)るる
・沸姫(わかひめ)の 沸(わか)の歌(うた)詠(よ)み
・歌見(うたみ)染(そ)め 思(おも)ひかねてぞ
・進(すす)むるを つい取(と)り見(み)れば

・キシイこそ 伴(つま)を身際(みきわ)に
・琴(こと)の音(ね)の 床(とこ)に我君(わきみ)を
・待(ま)つぞ恋(こい)しき

・思(おも)えらく 橋(はし)架(か)けなくて
・結(むす)ぶ和(やは) これ返(かえ)さんと
・返(かえ)らねば 言(こと)の葉(は)無(な)くて
・待(ま)ち給(たま)え 後(のち)返(かえ)さんと
・持(も)ち帰(かえ)り タカマに到(いた)り
・諸(もろ)に問(と)ふ

・カナサキ曰(いわ)く
・この歌(うた)は 返言(かえこと)ならぬ
・回(まわ)り歌(うた) 我(われ)も御幸(みゆき)の
・船(ふね)にあり 風(かせ)激(はけ)しくて
・波(なみ)立(た)つを うち反(かえ)さじと
・回(まわ)り歌(うた)詠(よ)む

・長(なか)き夜(よ)の 絶(とお)の眠(ねふ)りの
・みな目覚(めさ)め 波乗(なみの)り船(ふね)の
・復(おと)の良(よ)きかな

・と歌(うた)えば 風(かせ)止(や)み船(ふね)は
・快(こころよ)く アワに着(つ)くなり
・沸姫(わかひめ)の 歌(うた)もミヤビを
・反(かえ)さじと 申(もう)せば君(きみ)の
・御言宣(みことのり) カナサキが船(ふね)
・乗(の)り受(う)けて 夫婦(ふうふ)なるなり

・ヤスカワの シタテル姫(ひめ)と
・陽陰(あめ)晴(は)れて その押草(おしくさ)は
・ぬばたまの 花(はな)はほのぼの
・明(か)らす花(は)の 赤(あか)きは日(ひ)の出(て)
・ヒアフギの 板(いた)もて作(つく)る
・扇(あふき)して 国守(くにも)り治(をさ)む
・教え種

・明(か)らす扇(あふき)は
・十二葉(そふは)なり 檜扇(ひあふき)の羽(は)は
・穢(みな)祓(はら)ふ 陽陰(あわ)の四十八(よそや)ぞ
・また禊(みそ)ふ 道(みち)な忘(わす)れそ

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります